鍋島緞通【手織り】鍋島大牡丹　縁二重雷文　びわ茶

木綿製で、基本サイズは畳一畳。１枚100万円はくだらない日本最古の絨毯をご存知ですか。

鍋島緞通（なべしまだんつう）と呼ばれる佐賀県産の敷物がそれです。

緞通とは分厚い敷物のこと。今から3百年ほど昔、佐賀藩の農家の清右衛門（せいえもん）の使用人が、かつて大陸に漂着した折に敷物の技術を習ったと聞き、試しに作らせたところ、その美しさに心奪われた清右衛門自ら技術を習得して「花毛氈（はなもうせん）」を織ったのがはじまりと言われています。

時は元禄。江戸時代がはじまって百年後、平和な時代を背景に様々な文化が花開き、文教による統治が進められた時代です。歴代佐賀藩藩主のなかでも、詩歌や芸術、学問に秀で “文人大名” として知られる三代藩主鍋島綱茂（つなしげ）公が大いに気に入り、自らも愛用し、御用の品として江戸の将軍家へ献上しました。

畳一畳の敷物を丸めて運び、繋げて使う。古典的な鍋島緞通の片房（片側だけ房があります）もその名残りです。明治維新で御用の禁も解かれて民間も売買ができるようになりましたが、素封家の住まいを飾る高級品に変わりはありませんでした。

ペルシャ絨毯に代表される、大陸の羊毛やシルクの絨毯を日本で敷物にするには調達も難しいことから、風土にあう木綿を素材に精緻に織り上げられた鍋島緞通は、日本ならではの敷物として発展し、その風格と洗練を今に伝えてくれています。

今回ご紹介させていただく鍋島緞通の職人はその技と心を継ぐ「織ものがたり」の木下真さん。長崎街道、別名シュガーロードに工房を構えておられます。

江戸時代に外国との唯一の貿易港であった長崎から、佐賀を通って福岡県の小倉までを結ぶシュガーロードは、食文化、異国情緒あふれるさまざまな貿易品を運ぶ道でした。工房のある柳町地区は、今もなお江戸、明治、大正の繁栄を物語る旧家や銀行などの歴史的建造物が残っています。

トントントントントントン……
佐賀県遺産に認定されている「旧森永家住宅」の一角にある創作工房からは、緯糸を通した後に締め金で叩く音が、城下町の面影を残す街に心地よく響いています。

一畳を織り上げるには1か月以上の時間を要し、図案の作成、経糸掛けから織り準備、仕上げまで、納期には約3か月が費やされます。

次の世代へ継ぐことができる日本を代表する木綿の敷物。文人好みの鍋島緞通を本来使いの敷物として居室で愛用するもよし、タペストリーや額入りにして飾るもよし。風雅の極みのこの一枚を手に入れて百年の時を旅してみませんか。一畳物以外にもサイズを変えてご案内いたします。

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●木下 真　kinoshita makoto
兵庫県豊岡市生まれ。織ものがたり代表。大学在学中、伝統工芸への関心を高め、卒業後に佐賀県の老舗鍋島緞通織元に入社、職人として経験を積む。2012年に独立し、鍋島緞通織元「織ものがたり」を設立。2016年に佐賀県伝統的地場産品の指定を受ける。現在、佐賀市の重要文化財「旧森永家」に工房を構え、デザイナー兼織人の妻・由紀子氏とともに活動を進めている。